番組にはいつも以上に表情がみえるメッセージをたくさん
いただいています。
そこにあるのはそれぞれの思いと、家族のストーリー。
メッセージを大切に紹介しながら、エンディングを迎えるたび、
明日にはご家族にとって「できること」「可能なこと」がひとつでも
増えていますように、と祈るような気持になります。
昨日、ある家族を訪ねて南相馬市へ行って来ました。
原発からは35キロほどのところに位置するお宅です。
最近まで避難していて、先週自宅に帰ったと聞き
会いにいってきました。
国道6号は山元町に入ると道路の亀裂や段差がとくに
多くなるように感じました。
1ヶ月以上たってもいまだ水のひかない場所もあり、
大津波の海水が低い土地低い土地へと流れ込んだあとが
はっきりと分かります。
福島に入り、開いているコンビニで福島の地元紙を買って開いてみると、
「環境放射線モニタリング調査」の細かな数字が大きく紙面を割いていて
進行中の、目には見えない放射線との戦いが報じられていました。
お宅に着くと、おじいちゃんおばあちゃんが
笑顔で迎えてくれ、お隣に住む娘さんやお孫さんも
集まってくれました。
外で遊べなくて元気をもてあましている4歳の男の子にとって
客人のわたしは格好の”お友達”。
そこらへんにある置物を怪獣にして挑んでくる無邪気な姿は
かわいらしく、なごませてくれました。
しかし、みなさんが話す1ヶ月の避難生活は大変なもので、
ある時期一緒に避難生活を過ごしていたのご親戚は
1ヶ月に避難場所を7ヶ所も転々とされていたと聞きました。
別のご親戚は自宅に帰ったら窓ガラスが割られてテレビなどが
盗まれていたそうです。
ライフラインは復旧して水道は出るものの、
影響を考え、ミネラルウォーターなどを購入して炊飯から飲料水まで
まかなっているそうで、仙台から運んだ水がとても喜ばれました。
目の前で疲労の色濃いご家族の話しを聞きながら
みなさんの生活に「安全」「安心」はいつになったら戻るのだろうと
重々しい気持になりました。
私が訪ねたこのご家族は親戚ではありませんが、親戚以上のお付き合いを
させていただいています。
始まりは戦後にさかのぼります。
戦後の食糧難の時代に、
職場の研修で南相馬にいた私の祖父が、週末家族に持ち帰る
食糧を探して、行き当たりばったりで
訪ねたのが農業をされていたこのご家族のところだったのです。
大人数が身を寄せ合って暮らしていることを伝えると
同情してこころよく食べ物を譲ってくださったと、
わたしは子供のころから何度も何度もおじいちゃんに聞かされて
育ちました。誰もが大変な時代に、本当に相手のことを思って
行動することは簡単なことではありません。
私の祖父は私が中学生のときに亡くなりましたが、
ご家族とは、ずっとつながっています。でも私は
直接お会いするのは、15年ぶり、くらい。ご無沙汰していました。
宮城と同じく大地震や津波に加えて
原発事故という三重苦に苦しんでいる福島。
いわれのない差別・風評被害で、さらに苦しみを与えるなんて
絶対に避けなくてはなりません。
南相馬の一部をこの目でみて、被災地以外の方に伝えたいと思いました。
いま、必要なのは「想像力」ではないでしょうか。
等身大の想像力でいいと思うのです。
ふるさとが大好きな人は「もし、自分のふるさとだったら」
かわいいお子さんがいらっしゃる人は「もし、この土地で子育てをしていたら」
想像力で、いまつらい思いをされている方が多くいる場所に思いをとばしていきたい。
そして正しい情報を手にいれ、冷静に行動していくことも大事ですよね。
わたしはこの週末、
おじいちゃんが受けた恩を
60年以上の時間を経て子孫であるご家族に送ることができました、ほんの、少しだけですが。
今日まで私のもとに金沢や羽咋や神戸や東京から送っていただいた
支援物資で、わたしがとても助かったもの、嬉しかったものを思いだして届けました。
『恩返し』ではなく『恩送り』。
帰り際、南相馬のお宅のおじいちゃんが、
見覚えのあるグレーの帽子をもってきて見せてくれました。
それはわたしが子供のころ、私のおじいちゃんがかぶっていた
冬物の帽子でした。大事に使ってくださっていたことに感動しました。
今日、私の尊敬するパーソナリティーの
黒田弘子さんのチャリティー朗読会におじゃましてきました。
黒田さんほどの方が、と思うほどいつも謙虚でいらして
誰に対しても番組で聞くままの優しいことばをかけてくださる先輩です。
朗読会の中でもふたたび紹介してくださったのですが、
黒田さんはPassageの最終回の中で
井上ひさしさんの著書から「恩送り」のエピソードを紹介され、
リスナーのみなさんから大きな反響がありました。
あの日のPassageは、つたわってくる
黒田さんの思い、ディレクターの選曲含め
わたしにとっても忘れられない放送でした。
そしてその『恩送り』の気持はいまステッカーになって
J-SIDE STATIONを聞いてくださる方々の中で広がりをみせています。
J-SIDE STATIONに寄せられたあるリスナーさんからの
「自分たちのために一生懸命になってくれた人たちに
東北人として感謝の気持を表したい」というメッセージに共感して
仙台の登山グループ、「ハイクリアマウンテン+ユニティー」の
皆さんが、『Thank you & For You』ステッカーを作ってくださったのです。
ステッカーには
『力強くも優しく握る手が架け橋、「恩送り」が派生して
大きく育って欲しいという願いを込めた「幸せの芽」』がデザインされています。
『恩返し』は恩を受けた相手に恩を返すことですが、
『恩送り』とは恩を受けた相手ではなく、別の人に送ることです。
ハイクリアマウンテン+ユニティーのみなさん、
そして素敵なアイディアをくださったリスナーのみなさんに感謝を。
番組でプレゼントすることにしたところ、
『手紙に同封したい』
『車に貼りたい』などたくさん応募をいただいています。
先週、J-SIDE のスタッフが気持をこめてつくったお手紙に
井上さんと共に一枚一枚メッセージを書き、これまでご応募いただいた方にお送りしました。
応募していただいた方には今後もお届けしていくことにしています。
また新しい一週間が始まります。
沿岸部でも今週から学校がはじまるところもありますね。
今週も一歩ずつ、歩いていきましょうね。