綺麗な黒髪を後ろでひとつに束ねて
右耳にだけ羽のピアスを揺らしながら
中村中さんがステージに立っています。
マキシ丈のワンピースは大きな花柄に加えて
自由に筆を走らせたような印象的な模様が
そのオーラによく似合っていました。
ギターをつま弾く指先の爪は真っ赤なマニュキュアが塗られ、
その優雅な立ち居振る舞い、しぐさを今でもはっきりと思いだすことができます。
編成はギターとチェロに伊藤ハルトシさん、
キーボードのに大坂幸之介さんを迎えてのアコースティックツアー。
アルバム『聞こえる』からの曲が次々に
アコーティックスタイルで演奏されていきます。
『平熱』では語りの部分でゾクゾク。
『見世物小屋から』のドラマティック。
”私からみなさんへのラブソングです”とはじまった『世界が燃え尽きるまで』。
ライブの中盤にはリクエストコーナーもありました。
中村中さんのライブでは恒例となっているそうですが、
今回はお客さんからのリクエストではなく、
キーボードの大坂さんのセレクトによるリクエストというスタイルで
各地行われているそうです。白衣姿で登場し、
演奏中には見られないどぎまぎした表情で(笑)
今夜のリクエスト曲を発表する大坂さん。
仙台の夜にはデビュー当時の中さんがAAAに提供した
作詞作曲のナンバー「チューインガム」が選ばれました。
そして『〜時の方舟〜』の前には中さんが
「10年後の自分の未来に宛てた手紙』を読み上げるという演出があったのです。
封筒からおもむろに便せんを取り出して読み始める中さん。
出会ってくれた人たちへの感謝の言葉からはじまるその手紙は
”歌うことで救われてきた私はこれからも歌うことをやめません”と続き、
のこりの半分ほどは”あとは10年後のわたしへ”という言葉で
しめくくり封筒へ戻されました。
この企画にはファンのみなさんも参加できるようになっていて、
中さんのホームページにメールを送ると10年後の6月28日まで
保管してくれるそうです。誰もが自分の10年後を、
そしてきっとふるさとの10年後を描いた瞬間だったと思います。
ライブを通して実感したのは、中村中さんが何種類もの声をもっている
歌い手であるということです。
情念のこもる低音、やさしくもたれかかってくるような癒しの音域、弾む高音。
時に演劇的であると感想を語るひともいますが、
一曲一曲主人公がはっきり、くっきりと見えてくるという点で、
演劇的という言葉が当てはまるのかもしれません。
言葉が明瞭なのもありますが、やはり、歌声がそうさせているのです。
まるで一曲ごとに中さんの内にいる人が入れ替わるような、
そんな感覚になるほどでした。
鳴り止まないアンコール。私も拍手をしながら、耳慣れないアンコールを注意深く
聞いていると、中村流アンコーは「残業!残業!」と言っているんですね!
”残業、させていただきます”を頭を下げ、再び舞台にあがる中さん。言葉のセンスと
存在感を振りまきながら、出会いをストーリーに紡いで10年後に続く道の途中で
これからも歌を届け続けてくれるでしょう。
■□■この
文章はDate fmのネット会員・DNA会員のみなさん向けに
配信されたメルマガに掲載したものです
blogにはツアーの全日程終了後に載せています■□■