やっしゃない。
これまでの人生で一度も使ったことがなかった仙台弁なのに、
体調を崩したとき、この言葉だけが当てはまるような
気がしたことがありました。
そんなときは、人がさっと、自分の前を
早いスピードで通り過ぎるだけで、ストレスを感じたものです。
逆に、病院の中で、ボランティアの活動をされている
方々がゆっくりゆっくり歩くのが目にとまりました。
そもそも、誰の動きの妨げにならないように歩いています。
ある時には、ほがらかに、進路をゆずってもらっただけで、
泣きそうになったことがありました。
そこは病院だったから、なおさら気遣いがあったのだと思いますが、
街の中だって、気付かないだけで、
今日、調子が悪いひとも、病気を抱えているひともいるはずです。
以来、やさしい歩き方をしているかな、とふと思うことがあります。
雨がパラパラと降り出して、あわてて傘をさして歩く午後。
両手に荷物をかかえていたので、
地下鉄の通路からペデリストリアンデッキに上がる
エレベーターに乗り込むと、
最初にお母さんが、次に若い娘さんが乗ってきました。
娘さんは足が不自由であることが分かり、
降りる時には「開く」のボタンを押して
先にお二人に降りてもらおうと思ったわけですが、
私より先にお母さんがボタンを押して、
その瞬間、娘さんが
「お姉さん、お先にどうぞ」と笑顔で言ってくれました。
そして「どうぞ」の瞬間、
ミュージカルのような大きな手振りで勧めてくれたのです。
その笑顔のキュートさと、
お母さんと娘さんの連携プレイが見事で。
いえお先にどうぞ、と言いかけて、
いや、今はこのご好意に甘えて、その分お礼を言いたいなと
思ったわたし。
ありがとうございます!と言ったら
娘さんの笑顔がさらにシャキーン!とレベルアップ。
どんよりした梅雨空まで明るくさせるような
爽やかなひとがいるんだな。
やさしい歩き方を、今度は誰かにお返しできるように。
後ろから、ふたりの楽しげなおしゃべりが追いかけてきました。